水


クジラ日記

1999 6/12 和歌山県・那智勝浦町


 70頭の大群!

 先週は、久しぶりにマッコウに会えなかったので、ちょっと不安だったのですが、天気も良さそうだったのでまた和歌山にやって来ました。船長さんにクジラの様子を聞くと、なんと6/10には、全部で70頭ほどのマッコウクジラが、群れになってかたまっていたというのです。

 これには驚きました。僕も今までそんなに大群のクジラを見たことはありません。船長さん自身もかなり興奮して話してみえました。それを聞いて、ものすごく悔しかったですが、ひょっとしたらまた見えるかもしれないという期待も残されています。船に乗る前から、どきどきしてたまりませんでした。

 さあ、出港です。海は凪で船がすいすい進みます。これなら、遠くのブローも発見しやすいです。前方では、つきんぼ漁の漁師さんがハナゴンドウを追いかけています。邪魔にならないように遠巻きに通りすぎました。一人で船を操りながら、銛をつくなんてすごく大変だと思います。


黒潮の中の大マッコウ

 船はどんどん沖に出ますが、クジラの気配はまったくありません。陸地が全く見えなくなり、ずいぶん沖まで来てしまいました。1時間くらい過ぎたとき、漁師さんからマッコウクジラを見たという知らせが入ってきました。しかしまだまだ沖で、ここから30分くらいかかるということでした。

 波が少なかったので、そのポイントに向います。まわり見渡しながら、クジラのブローを探していると、大きなブローが確認できました。どうやら、雄のマッコウクジラのようです。やっぱり雄のブローは格別です。白い煙がぶわーっと上がります。その雄マッコウは、大きな頭をこちらに向けて、どんどん近づいてきました。
こっちへ来るマッコウクジラ
 船に近づくと、クジラは浅く潜って、少し離れた場所に浮上しました。大マッコウは、その後何回か呼吸を繰り返すと、大きな尾びれを上げ、深い海の底に向ってまっすぐ降りていきました。ふと気がつくと、あたりは黒潮の真っ只中。今までの海とは比べものにならないくらい、波があります。船の上に身体を固定しておくのも一苦労です。揺れる船の上にしがみつきつつ、クジラを探しました。


これは夢なの?

 まわりには少しバラけて何頭かのクジラがいましたが、先日のようにかたまってはいないようでした。とても残念です。何頭かのクジラをウォッチングした後、船の後ろの方に、子供のマッコウクジラがいるのを見つけました。そーっと近づくと、クジラはすっと潜りました。

 今までの海では透明度が悪いため、水面下のクジラの様子なんてほとんど見えませんでしたが、ここは黒潮の真ん中、水も本当にきれいです。水面下でクジラがひるがえって、白いお腹を見せている様子まではっきりと分かりました。なんとその子クジラは、そのまま船の下を通りすぎ、船の反対側の目の前に出てきました。大きな頭を海面に突き出し、こちらに興味津々のようです。

 その後船の後ろにまわりこみ、海面で横向きになって、こちらを小さな目でのぞいたり、愛嬌たっぷりです。普段マッコウクジラは背中しか見ることはできませんが、この子クジラは活発に向きを変えては、船からまったく離れようとしないので、船の上からでも全身がはっきりとわかりました。
船に近づくマッコウの子供
 その子クジラはそれから何度も何度も、船の周りをまわってくれました。僕自身もこんな経験は初めてだったので、もう興奮して船の上をあちこち走り回ってしまいました。まるで夢のようだわと誰かがつぶやきましたが、本当にそのとおりだと思いました。船長さん自身もとても嬉しかったみたいで、みんなの顔から笑顔があふれていました。

 いつまでもクジラと遊んでいたかったのですが、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいます。船が港に向きを変え、走り出してもクジラはまだそばにいました。一生忘れられないような経験がまたひとつできました。

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