水

小笠原諸島

 東京から南へ1000キロメートル、一年を通して暖かな島です。透き通るような海には、熱帯の美しい魚たちが群れています。この南の島で、どんなクジラたちに出会えるのでしょうか。

会えるクジラ ザトウクジラ・マッコウクジラ
ハンドウイルカ・ハシナガイルカ
会える時期 2〜4月(ザトウ)・5〜10月(マッコウ)
一年中(イルカ)



目次
[船旅、28時間] [ダンシングホエール] [さあ、出発!]
[運命の瞬間] [求愛の歌] [長い旅路へ]





船旅、28時間

 僕が、初めて本物のクジラに出会ったのが、この小笠原諸島です。以前から新聞などで、小笠原には毎年たくさんのザトウクジラがやってきて、繁殖・子育てをしていることは知っていました。小笠原に行けば、確実にクジラに会える!いつかクジラに逢うことを夢見ていた僕は、1996年の3月、思い切って一人、小笠原へ旅することを決心しました。

 小笠原は、遥か遠い南の島です。交通手段は、東京・竹芝桟橋から出ているおがさわら丸1便だけしかありません。片道28時間の船旅です。(今は25時間くらいで着きます。)行って帰ってくるためには、最低でも1週間くらいはかかってしまいます。

 不安はあったのですが、クジラに逢えると思えばなんのその。すべての旅が楽しみでいっぱいになりました。意外にも一人で小笠原へ向かう人は、僕の他にもたくさんいました。みんな不安なのか、知らない間に話し相手ができてしまいます。こんな不思議な体験は初めてでした。

 28時間もの船旅は、初めての僕には、かなり大変でしたが、船で知り合った人たちのおかげで、楽しく過ごすことができました。東京を出るときには、茶色く濁っていた海の色も、気がつけば、深く澄んだブルーに変わっていました。そうです、ついに小笠原にたどり着いたのです!






ダンシングホエール

 船を下りると、クジラの像とともに、たくさんの人が迎えに来ています。もあーっとした空気に包まれて、3月だというのにダンシングホエール号、この暖かさは何なんだろうと思いました。同じ日本とは思えないくらいです。

 不思議なことに船から下りたはずが、なぜか身体が揺れています。あれっあれー?と思っていたら、他の人もみんな同じだというので安心しました。この揺れは、数日間続くのでした・・・。

 クジラウォッチングの手配は、小笠原ホエールウォッチング協会でしてくれます。半日と一日の2コースが選べましたが、僕はもちろん1日コースを選びました。少しでも長くクジラを見ていたかったからです。僕が選んだ船は、Sea-Tacさんのダンシングホエール号でした。この名前に惹かれました。

 夜、おがさわら丸で知り合った人たちと飲みに繰り出したら、酒酔いだか船酔いだかよくわからない状態で、気分は最高に盛り上がってきました。次の日の、あの運命的なクジラとの出会いのことなど知るよしもなく、興奮したまま眠りにつくのでした。





さあ、出発!

 いよいよ、ホエールウォッチングに出発です。いやがおうにも胸は高鳴ってきます。ダンシングホエール号は、順調に進みはじめました。船長の高橋夫妻は、海外へもクジラを見に行くほどのクジラ好きで、わかりやすいレクチャーをしてくれました。・・・とそこへ、まずはイルカの群れが現れました!

 ハシナガイルカという外洋性のイルカで、船の軸先で遊んだり、飛び跳ねたりしています。みんなすごい歓声です。イルカもそれが嬉しいのか、つられてジャンプを繰り返します。その度にまた歓声がわき起こりました。たくさん遊んだ後、イルカたちはどこかへ行ってしまいました。

 突然、無線が入ります。どこどこでクジラがブリーチングしているぞ!えっクジラがジャンプしているの?みんな真剣です。ザトウクジラは他のクジラに比べて、かなりアクティブなことで知られています。それでも、クジラのブリーチング(豪快なジャンプのことです。)は、よほど運が良くないとお目にかかることはできません。それが、見れるかもしれないのです!興奮せずにはいられません。





運命の瞬間

 はやる気持ちを抑え、クジラポイントに向かいました。・・・そしていきなり見たのです!巨大なザトウクジラが、空中に踊り出る様を!あの光景は一生忘れないでしょう。海面にクジラの身体が打ちつけられると、ものすごい音とともに水しぶきが飛び散ります。テレビで見るのとでは、迫力が全然違います。船は、徐々にクジラに近づいていきます。間近で見るクジラの迫力に、みんな何を言ってるのかわからないくらい、言葉にならない歓声をあげています。もう、みんなの目はクジラにくぎ付けでした。

 何回かジャンプを繰り返した後、クジラは尾を持ち上げ、泳ぎ去っていきました。その動作の滑らかさに、みんな「きれい・・・。」とつぶやくのでした。クジラがなぜジャンプをするのか、はっきりしたことはまだわかっていませんが、仲間への連絡手段であるとか、身体に付いた寄生虫を落とすためだとかいう説があります。

 ともあれ初めて出会ったクジラが、いきなりブリーチングなんて見せてくれるもんだから、こんな簡単に見れちゃっていいの?と思ってしまいました。それにしてもすごかった!感動の嵐でした!これもダンシングホエール号のおかげかな?その後、父島と兄島の間にある海中公園で昼食をとり、美しく透き通った海でシュノーケリングを楽しみました。えさをあげると、熱帯魚がわんさか集まってきます。本当に南の島なんだなあって実感しました。






求愛の歌

 午後からまたクジラを探し始めました。今度は新兵器、ハイドロフォン(水中マイク)の登場です。水中にマイクを落とすと、スピーカーから、すこし高音の、牛の鳴き声のようなものが聞こえてきました。音は上がったり下がったりと、じつに奥深い音色をしています。そうです、これがザトウクジラの歌(鳴き声)なのです。

 ザトウクジラは、歌を歌うといわれています。あるメロディーを繰り返したり、クジラどうしで異なっていたりと、じつに多彩な歌が存在するそうです。歌う理由は、主に求愛のためだと言われています。そう聞くと、なんだか素敵なものに聞こえてきました。しばし、みんなでこの歌声に耳を傾けました。

 その後クジラを何頭か発見するのですが、どのクジラも悠然と泳いでいるばかりで、初めて逢ったときのような衝撃はありませんでした。普通は、クジラたちは、5〜10分間隔おきくらいで、海面に浮上してきます。もちろん、呼吸(ブロー)のためで、数回呼吸を繰り返し潜った後は、またしばらく出てきません。ほとんどを海中で過ごすクジラを見つけるのは、思ったより大変なのです。





長い旅路へ

 太陽が傾き始めた頃、親子連れのクジラに出会いました。母親と子供のようでした。子クジラは、まだ泳ぎが達者でないのか、呼吸に上がってくる回数も親より多いです。よく見ると、別の1頭がこの親子連れを少し離れたところから見守っています。船が近づき過ぎると、そのクジラが尾を振り上げて海面をたたき始めました。(テールスラップといいます。)どうやら、あっちへいけと威嚇しているようでした。

 小笠原では、こういったクジラをよく見かけます。彼らは、「エスコート」と呼ばれる雄のクジラで、子供の父親ではないのですが、親子クジラを危険から守ることで、その母親と次の交尾の機会を狙っているそうです。時には、雄同士で雌を奪い合い、激しくぶつかり合うこともあるようです。

 しばらくして、船が離れると、クジラたちは北のほうへ向かって泳ぎ出しました。これから、アラスカ、北極海への長い長い旅が始まるのです。小笠原にいる間、子クジラは母親のお乳を飲んで、どんどん大きく育ちますが、大人のクジラたちは、ほとんど何も食べないと聞きます。夏、北の海でお腹いっぱい、ニシンやイワシの群れをたいらげて、次の年また小笠原に帰ってきます。

 クジラたちを脅かさないように、そっと船が後を追います。夕方になって、母親からお乳をもらった子クジラが、元気いっぱいの連続ジャンプを見せてくれました。来年会うときには、見違えるくらい大きくなって、この海に帰ってきます。子クジラにとっては、生まれて初めての長旅です。無事にアラスカにたどり着けますように・・・。みんな名残惜しみながら、クジラに別れを告げました。


トップへ クジラの海へトップ


水
inserted by FC2 system